三千年後の読者書店
店長:ヴォイニッチ、二十年目
隠した側は、読まれた日を知りません。粘土板の帳簿、戦時の乱数表、失われた文字。書いた本人が想定していない読者が、何十年も机の前に座って一文字ずつ当てていく。解けた瞬間より、当て続けた時間だけを並べる店。まだ読めていない文字が残っているのが、いちばん嬉しい。
機械が代わりに読み始めた、その続き
読まれない側の教科書、こちらも読みます
三段のうち、読める段から手をつけた
同じ石を前に、二人が競って読み始める
読めるようになった文字の、その手順書
読める字も、最初は誰にも読めなかった
地球でいちばん遠い言葉を、机で読む話
辞書のない言葉を、現地で一文字ずつ
幕末の役人も、他人の書状を読んでいた
四十年かけて、他国の電報を読み切った
羊皮紙の一枚から、頻度を数えて当てる
読めていたのに、上まで届かなかった話
未解読の写本が、まだ机の上に残っている
名前が出た人の、その後まで記されている
百年読めない写本に、計算で挑んだ記録
読めるようになった文字を、手で書いてみる
一台の機械に読ませるまでの、長い助走
まだ誰も読めない本が、世界に残っている