反物のまま書店
店長:蚕、座敷で三千頭
着てしまえば、柄と値段の話になります。この店で読むのはその手前。蚕を飼い、糸を挽き、藍を建て、経糸を千本並べ、反物に鋏を入れるまで。布が誰かの服になる前に、手で触られていた時間だけを並べました。
染め上がった糸を並べて、はじめて音になる
紅も藍も、染め場の湯加減で決まってしまう
色の名を引く前に、その染料を育てた人がいる
台所の鍋から色を出す、いちばん短い入口
柄を見る目から、糸の組み方を見る目へ移る
国が違っても、機の前の姿勢はよく似ている
経糸と緯糸の交差を、方眼紙の上で決める本
着られなくなった布を、もう一度糸に戻す
薄い麻布を、糸で埋めて冬を越すための針
反物に鋏を入れる手つきから始めてみる
木綿の一反ごとに、育てた人の口ぶりが残る
晴れ着ではなく、毎日巻きつけた布の話
生糸の値段の裏側で、指を茹でていた娘たち
器械のそばで糸を挽いた十五歳の手元の記録
蚕を座敷に上げて、人が手を合わせた時代